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2025年1月12日日曜日

「性格」から見たドナルド・トランプ(1)—「ヤクザ」の心性との類似点—

 はじめに 

 4年前にトランプがバイデンに選挙で敗れ、しかも、議事堂襲撃を扇動した疑いで起訴された時、そんな「横暴」で「自己中心的」なトランプが大統領に返り咲くことはまずないだろうと、大方の人は、そう考えたのではないでしょうか。

 その「予想」に反して、トランプが選挙に勝利し、2025年1月から米国の大統領になったわけですが、そうなったからには、その現実を直視し、彼が大統領として何を考え、何を行い、それが世界にどのような影響を与えるのか、冷静に分析するべきだと考えます。

 それに関して、私は、トランプの考えや行動が、日本の「ヤクザ」に類似するという観点から、それらを読み解いていきたいと考えます。




            AFPBB News より借用)



 ドナルド・トランプと「ヤクザ」の類似点 

1)「こわもて」に見えても、暴力を使うことは稀

2)「こわもて」や「大物」であることを「演出」する

3)こわもてやハッタリを利用しつつ、利益を得る

4)損得でしかものごとを考えない

5)他者への責任感がない

6)票(稼ぎ)のにおいをかぎつけることがうまい


 1)「こわもて」に見えても、暴力を使うことは稀 

 一般の日本人たちは、「ヤクザ」と聞くと、傷害事件を起こすような「凶悪」で「粗暴な」人たちをイメージするのではないかと思います。でも、参考文献の著者である向谷氏は、意外にも、「暴力の行使を一番恐れているのは、実は、彼ら(ヤクザ)自身なのである」と述べています

 なぜなのでしょうか。

 現在では、特に「指定暴力団」の組員は、重大事件で逮捕されると、重い懲役刑が科されます。恐喝などの軽い事件でも、繰り返せば、なかなか出所することができなくなります。以前は、それで「箔」が付き、「務め」を終えると幹部として迎えられる時代もあったとのことですが、今は、違うと向谷氏は述べてます。今は、刑期を終えた時、戻る組が解散してしまっていることさえある時代だとのことです。さらに、組同士の抗争による事件は、警察の介入を許す口実を与えることになり、組織の弱体化につながりかねません。

 ところで、政敵にやたらと噛みつき、また、交渉相手を威圧するような、「こわもて」な印象のあるトランプですが、彼は、一期目の大統領の在任中、ほとんど、外国への武力行使を行ってはいません

 イランが米国のドローンを撃墜したことの報復として、イラン国内の軍事施設への攻撃が計画されましたが、その実施寸前で、トランプは攻撃停止を命令したとされています。彼は、その後、「報復合戦」といった、軍事行動の泥沼化が起こることを嫌ったのかもしれません。

 また、シリアの化学兵器使用への制裁処置として、シリアへの攻撃が計画された時も、シリアに駐在するロシア軍に攻撃を事前に通知したとされています。これも、ロシアとの係争に発展するリスクを避けたかったためとされています。

 トランプも、「ヤクザ」と同様、武力(暴力)の行使は、割に合わず、「損」だと考えているのではないでしょうか。武力行使には、多額の「戦費」が必要となり、それで米国が得る、利権などの実質的な「利益」は少ないからです。それどころか、戦争が「泥沼化」すれば、国を弱体化させかねません。武力介入して、得られるのは、「民主主義の盟主」などといった名誉ぐらいなものですが、彼は、それにまったく価値を置いてないように思えます。


 2)「こわもて」や「大物」であることを「演出」する 

 向谷氏は、「ヤクザ」は、「言葉、風貌、服装、雰囲気、目配り」などで、相手を威嚇するのだと、言います。威圧的な言葉、「こわもて」に見せるための顔貌、派手な服などで、相手に恐怖感を与えるような「演出」をするのだと。

 たとえば、突然、怒鳴ったり、すごんだり、また、髪型やサングラスやひげなどで、一生懸命、その「こわもて」ぶりを演出します。派手な服、歩き方でも、その「筋」であることをアピールするのです

 そんなヤクザにとって、「メンツ(体面)」は命より大切なものなのです。「なめられたら、おしまい」なのです。




 トランプも、「体面」を非常に気にしています。自分を「大物」として認め、敬意を払う相手には機嫌がいいのですが、自分に逆らう相手をひどく嫌い、攻撃をします。彼は、自分の「顔」で、相手の指導者と外交をしているようにも見えます。


 ヤクザが演出するのは相手に恐怖感を抱かせることだけでなく、「力や金がある」、「影響力がある」と感じさせるために「演出」をするのだと、向谷氏は述べます。たとえば、ベンツなどの高級車に乗り、金無垢のオメガを身につけ、隣に美人の姐さんを置くといった「演出」です。また、高級クラブなどで派手に金を使うというのも、その演出の一つです。そのような「大物である」ように見せる演出によって、まわりが「頼りになる」、「何とかしてくれる」といった気持ちをもつようにさせるのです。向谷氏は、「ウラ社会は恐がられつつ、(ヤクザは)人気稼業」でなければならないと語っています。

 トランプも、自分を「大きく」、また、「影響力がある」ように見せるための「演出」に気を配っているように見えます。

 たとえば、ニューヨークのトランプ・タワー、自宅であるマル・アラーゴ、移動のためのプライベート・ジェット、元モデルの美人妻など、自分には、金や力があり、それを獲得するだけの能力があるといったアピールすることで、自らのカリスマ性を「演出」しています。

 また、衰退産業で働く白人労働者たちには、「関税を上げ、仕事を取り戻す」とか、不法移民におびえる人たちには、「移民を強制送還させる」など、耳障りのいい選挙キャンペーンで、自らは、「頼りがいのあり、何とかしてくれる指導者」だと思わせるように「演出」をします。

 ただ、それらの政策は、実効性に乏しく、整合性に欠けたもので、「人気取りの政策」に過ぎないのですが、それらの「演出」によって、国の現状に対して有効な策を講じることのできなかった既成の政治家にはない「力」を民衆に感じさせることができたのではないでしょうか。

 

 3)こわもてやハッタリを利用しつつ、利益を得る  



 

 「ヤクザ」は、暴力という手段に訴えることなく、相手に恐怖感を抱かせる「演出」をすることで、「何をするかわからない」といった「恐怖感」を一般人にかせます。それを利用しつつ、言葉(レトリック=詭弁)で巧みにコントロールすることで、商売(シノギ)をしていると、向谷氏は述べています。

 トランプも、交渉相手に対して、突然、非常識とも思える要求を突きつけることで、「彼は何をするかわからない」といった恐怖感を相手に与えています。

 中国製品に対する60%の「関税」をはじめとする経済的な圧迫や、カナダやグリーンランドに対する領土拡大的な野心や、パナマ運河に対する利権的な要求など、大統領就任前にもかかわらず、つぎつぎと、かなり非常識と思えるような発言を繰り返います。ただ、それらは、諸外国に対する「威嚇」や「威圧」に他なりません

 ところで、向谷氏によれば、「ヤクザ」も、交渉は「無理難題から始め、小さな要求をスッと出す」、つまり、常に、王手、飛車取りを目指しているといいます。たとえば、最初、「500万借用の連帯保証人になる」ことを相手に要求し、相手がひるむと、「俺が信用できないのか」とすごみ、その上で、相手から200万の借金をするといった手口なのです。当初の要求が「ハッタリ」だとわかっていても、「ヤクザだから、何をするかわからない」という恐怖感と、巧みな交渉術により、その罠にはまってしまうのです。

 トランプも、「ヤクザ」同様、諸外国への要求がすんなり通るとは考えておらず、そのように威嚇することで、「トランプのやることは予測不能」といった恐怖感を相手に抱かせ、その上で、自分の要求が通りやすくなるようにしているのではないかと考えられます。威嚇された相手は、当初の要求が減額されたということで、「妥協するしかない」とあきらめるか、あるいは、「それだけで済んだ」と、むしろ安堵するかもしれません。

 そのような交渉手段は、向谷氏に言わせると、「ドア・イン・ザ・フェース」という、一種の心理作戦なのです。



 

 4)損得でしかものごとを考えない 

 一般社会の企業と同様、ウラ社会の「ヤクザ」も、しっかりと金を稼ぎ、組員を養い、「組」を大きくするため、日々、努力することが求められています。



 ヤクザ稼業にとって利益を得ることが一義的なことであり、彼らは、ものごとをすべて、「損得」で考えます。得になることを追い求め、損なこと、危険なことには、手を出さないのです。

 トランプも、一義的には、「損得」で政治を考えています。「デール(取引き)」により、相手からの「譲歩」を引き出すことで、自分や国の「益」ばかりを追い求め、「リスク」になることを避けようとしているのではないでしょうか。次の項で述べるように、彼は、政治家としての信念や政治的理念のために動くようなことはありません。

 

 5)他者への責任感がない  

 すべて損得でものごとを考えるということは、個人的に言えば、「倫理感」、政治的に言えば、「理念」や「理想」が欠如しているということです。




 高倉健が演じたような時代の「ヤクザ」には、少なくとも、彼らを律する「義理」や「人情」といった任侠道があったと思われますが、現代「ヤクザ」には、それはなく、彼らには金や力がすべてだと考えられます。

 トランプにとっても、自分の利益や国益がすべてであるという意味において、彼の、他者に対する共感や責任感は乏しいと考えられます。

 民主主義」という「理念」も彼にとっては二の次のものであり、「地球温暖化」もまるで他人事のように見えます。共同体を維持するための「順法精神」も薄いようで、このため、4件の事案で起訴されました。また、メールなどで「虚偽」の発信をすることにも、まったく罪悪感はないように見えます。

 

 6)票(稼ぎ)のにおいをかぎつけることがうまい 

 ヤクザ」にとって、いかに多く金を稼ぐかが、もっとも重要な課題です。そのために、常に、金を儲けるための「ネタ」を探しているとされています。それを見つけにるは、動物的な「勘」が必要で、それを備えている「ヤクザ」が優秀な「ヤクザ」であるとされています。

 トランプも、「金」や「票」のにおいを嗅ぎつけることができるという点においては、名人級です。イスラエルの右派・極右政権を支持しながら、ガザの惨事に心を痛めている中東系の移民の一部の票にも手を伸ばしています。また、本来は、民主党の岩盤支持層である労働組合員や黒人層にも、うまく取り入り、票を得ています。同じグループ内にも、分断があり、それをうまく嗅ぎ取って票に変えることに関しては、天賦の才があるといえます。

 トランプにとっては、どんな「票」でも、自分に投じてくれる「票」をつかむことが、第一義的なことなのです。


【参考文献】

向谷匡史、「ヤクザの実戦心理術」、2003年、KKベストセラース


志村宗生:「ことばのクスリ—薬に代わるこころのケア—」
志村宗生:「性格と精神疾患—性格類型によるその診立てと治療—」


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