はじめに
プーチンによるウクライナ侵攻が始まって、はや8ヶ月の月日が経ちました。
その間に、キーウ侵攻の失敗、ブチャの虐殺、ウクライナ軍の反転攻勢など、戦況は、侵攻当初とはかなり違った様相となっています。
それでも、未だ戦争の終結は見えてこず、また、戦況がロシア側に不利なものとなるに従い、プーチンによる核兵器の使用の恐れといった問題も、この戦争をさらに深刻なものとしています。
そこで、第2弾として、「性格類型」を通して見た、プーチンの「核兵器使用の可能性」について考えていきたいと思います。
なお、第3弾では、「戦争終結への道筋」について考えていく予定です。
プーチンによる核使用の可能性
1)核使用への言及
侵攻当初から、プーチンは、しばしば、ウクライナや欧米に対する核兵器の使用について、それをほのめかしたり、明らかに言及したりしています。いわゆる、プーチンの核による「恫喝」です。
8月からのウクライナ側の反転攻勢が成果を上げつつある今日、ロシア側の核兵器使用についての発言が強まっているように見えます。この場合の核兵器とは、大都市を丸ごと廃墟とするような大型の核兵器ではなく、主に、「戦略核」と呼ばれているような、もっぱら戦場で用いられる小型の核兵器のことです。それでも、日本に落とされた「原爆」とあまり変わらない威力をもつものであり、民間人の無差別殺戮や、広域の放射能汚染を引き起こす可能性が否めない兵器です。
2)核抑止とは、核による恫喝
ところで、核兵器は、そのすさまじい破壊力ゆえに、主に、局地戦での使用目的ではなく、あくまで、大国同士の大戦を「抑止」する目的で保持されている兵器です。つまり、抜かれることのない「伝家の宝刀」のようなものです。だから、核兵器をもつことで、自国の存亡にかかわるような敵の侵略があれば核兵器を使用すると、相手を「威嚇」、「恫喝」することで、そのような侵攻を未然に「抑止」しているものなのです。
つまり、核兵器とは、” そもそも” 、敵に対する「威嚇」や「恫喝」として用いられているものです。通常は、それは「言わずもがな」の事柄に属するものなのですが、プーチンは、「情報戦」の一環として考えているのか、核使用についてたびたび言及しているに過ぎないとも考えられます。
3)プーチンは無謀なことをしない
すでに第一弾で述べた、プーチンの性格の中で、「気が小さい」という性格傾向の項目をあげています。
「尊大」な態度からは想像しにくいのですが、彼は、とても「慎重」な性格で、「臆病」ともいえるような人だと考えています。つまり、彼は、傷つくこと、自分が無力だと感じることに恐れを抱いており、そうなることを極力避けるために、「完全」な存在となることを目指していました。そうする中で、自らが「完全」を達成した人間と思い込むに至り、プーチンは、あのような「尊大」な自己像をもつことになったと考えられます。
マスコミによる報道の中で、「偉大なロシア」といったプーチンの考え方は「妄想」であり、無謀なウクライナ侵攻を行ったプーチンは「理性を失っている」と考える人たちがいます。つまり、彼は、妄想に囚われた、気がふれた人物だと。でも、彼の性格から見ると、「偉大なロシア」は彼の「内なる理想」であり、ウクライナ侵攻も彼なりに、理性的に考えた結論だと、考えられます。
ところで、合理的に考えれば、ウクライナ侵攻で核兵器を使用することは、第一に、戦争のステージを変えてしまうもので、これまでも見られたように、欧米のさらなる介入を招き、ロシアにとって戦況が今よりも不利となっていく可能性があります。また、広大な領土をもつウクライナで、小型の核兵器の使用がどの程度戦況を有利に導くかは疑わしいとされています。それに、核兵器の使用は、世界各国の非難を浴び、世界におけるロシアの孤立をさらに深めることでしょう。
このように考えると、いまのプーチンが核兵器の使用という「大胆な行動」に出ることは、まずないと考えられます。彼は、彼が「無謀」と考えるようなことはする人ではないからです。また、やってみなければわからないようなことに、あえて「挑戦」する人ではないと考えられます。だから、現状では、動員による通常戦力の強化とか、彼が有能と考える司令官の登用など、この戦況に対して彼なりの「合理的」な対処を試みていくと考えられます。
ただ、彼は自らを「完全」と考えていて、まわりの意見に耳を傾けてこなかったという問題があり、さらに戦況の悪化した後も、核兵器の使用に対して、プーチンが合理的、かつ、慎重でありうるのかという点で、多少不透明さはぬぐえないかもしれません。
◇このシリーズの続きの記事は、「性格」から見たプーチン(3)-戦争終結の難しさ-です。
【参考文献】
「強迫パーソナリティ」、L.サルズマン、1973.(邦訳:成田善弘、笠原嘉、みすず書房、1998.)
「性格と精神疾患」、志村宗生、金剛出版、2015.