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2022年11月29日火曜日

「性格」から見たプーチン(4)-戦争終結へのシナリオ-

 はじめに 

 前回の投稿で、プーチンの「性格」から見てみた場合、ウクライナでの戦争の終結への途はとても困難なものとなる可能性が高いと、述べました。

 つまり、プーチンは、ロシア軍が多少劣勢に陥ろうとも、それで弱気になって、戦争を終わらせようと考える人ではありません。また、世界で孤立しようとも、外国の首脳たちの意見に耳を傾けるような人でもないのです。情報の限られたロシア国民に対しては、巧みな弁舌を駆使するなどの、情報のコントロールを行い、一定の国民の支持を維持しようとするでしょう。

 このように、戦争終結の兆候がなかなか見えてこないような状態が続くと考えられますが、それでは、いったい、どのような戦争終結の道筋がありうるのかについて、プーチンの「性格」といった観点から、考えてみたいと思います。






  戦争終結のシナリオ 

a.圧力をかけ続ける

 まず第一に、この戦争を終結に導くための、「必要条件」は、プーチンに圧力をかけ続けることだと考えています。


 圧力とは、第一に、欧米の武器支援をはじめとする、ウクライナ国民への支援を継続することで、戦況がウクライナに優位となる状態が続くようにすることです。つぎに、欧米による経済制裁も、じわじわとではありますが、ロシア経済に打撃を与え、軍備や国民生活に必要な物資の不足をもたらします。また、ウクライナ侵攻に脅威や不満を抱いている国々に対する働きかけは、それらの国々の、プーチンからの離反を速めていくかもしれません。

 このようにして、ロシアの劣勢が明らかになり、ロシアの孤立が進むと、一方で、それを何とか挽回しようとする、プーチンの動きも強まるのですが、他方で、プーチンの中で、自らの「完全さ」を守り切れないのではないかといった「不安」も増大するはずです。その不安の増大が、状況の変化をもたらす可能性を高めると考えます。

 では、ウクライナ侵攻が終結に向かうことに、何が「決定的なもの」となるのかについて述べてみますが、それは、あくまで、プーチンが政権の座についていることを前提とする話だ、ということをご承知おきください。


b.戦争により「偉大なロシア」が瓦解する危機を実感した時

 まず、第一に、戦争が終結する可能性があるとすれば、いかに、プーチンが抗ったとしても、ウクライナ侵攻を続ければ続けるほど、彼が理想とした「偉大なロシア」が逆に遠ざかっていくだけでなく、侵略開始前よりも、さらに衰退したロシアを見ることになることに気づいた時ではないかと考えています。ある意味で、「どん底」が見えてきたような時であり、ロシアや自らの未来に対して「不安」や「恐怖」を感じた時ではないでしょうか。



 そもそも、ウクライナへの侵攻は、「偉大なロシア」への復興を目指してのことであり、そのロシアを衰退させてまで、戦いを続けることに合理性はないはずです。でも、「全知全能」の存在となったという彼の思いこみが、合理性の範囲で行動することを妨げていたと考えられます。つまり、ものごとをすべてコントロールできるといった思い上がりが、ものごとの「限界」を認知する能力をプーチンから奪っていたのではないでしょうか。そんなプーチンの認識や行動を変えるものがあるとすれば、自らが大切にしているものが失われるという恐怖ではないかと考えられます。

 もともと、ものごとを合理的に考える傾向をもっている人なので、一旦、ウクライナの侵攻を断念すると決めたならば、その後は、合理性に従って行動できる人だと考えます。つまり、何らかの責任転嫁や言い訳をするかもしれませんが、粛々と、戦争終結への道を進めていくと考えられます。

 ただ、基本的に、プーチンの性格が変わった訳ではないので、和平交渉の中では、現実的な範囲ではありますが、執念深く、さまざまな要求をしてくることが考えられます。


c.盟友が離反しそうになった時

 第二に、戦争終結が始まる可能性のある場面とは、プーチンがもっとも頼りにしている、つまり、彼が精神的に依存しているような人たちが、プーチンから離れそうになった時だと考えます。


 そのような人たちとは、おそらく、最側近であるパトルシェフ安全保障会議書記、FSB・連邦保安庁のボルトニコフ長官の二人であると考えています。この二人をプーチンは、心底、頼りにしていると考えられます。ちなみに、この二人は、プーチンが、秘密裏に、ウクライナ侵攻の計画を依頼した人たちだとも言われています。(英紙「タイムズ」)

 もしも、彼らが、ウクライナ侵攻に非現実的にこだわり続けるプーチンを見捨てようとする時、プーチンは、彼らを引き留めるため、ウクライナでの戦争を終結することに、しぶしぶ、同意するかもしれません。プーチンの性格としては、一旦、意を固めたことを途中で覆すようなことはないので、粛々と、戦争終結へと歩を進めていくものと考えられます。


 おわりに 

 そのいずれのシナリオにしても、早期に実現される可能性は少ないでしょう。つらいことですが、しばらくは、激しい戦闘が続き、互いの兵士の死傷者や民間人の犠牲者は増え続けることになると思います。その先の、さらに、その先に、やっと平和が見えてくるものと考えます。

 できれば、全世界の指導者たちが、戦争がいかに悲惨で、文明や地球環境を破壊するものかを、この戦争を通して学んでくれたならば、多少は、この戦争による犠牲も、無駄ではなかったと思えるかもしれません。

 そうであることを祈るばかりです。

◇このシリーズの初回の記事は、「性格」から見たプーチン-(1)-なぜウクライナ侵攻を始めたのか-です。


【参考文献】

「性格と精神疾患」、志村宗生、金剛出版、2015.



 



2022年11月6日日曜日

「性格」から見たプーチン(3)-戦争終結の難しさ-

  はじめに   

 すでに述べたように、プーチンによって始められたウクライナ侵攻は、いまや、ウクライナ側の反転攻勢といった局面を迎えております。現時点では、両者とも、戦場における「優位」を目標としているようで、和平交渉による早期の停戦は望み薄の様相です。この戦争が「泥沼」へと向かう可能性もあり、世界の人たちは、それを懸念しているのではないでしょうか。

 今回は、プーチン関連の記事の第三弾として、プーチンによるウクライナ侵攻を終わりに導くことの難かしさについて、プーチンの「性格」の分析を通して、考えていきたいと思います。






 戦争終結の難しさ 

1)プーチンのウクライナ侵攻の、これまでの経過

 ここで、第一弾の記事である、「性格」から見たプーチン(1)について、振り返りつつ、その後の侵略の経過について述べてみます。

 まず、プーチンがウクライナ侵攻を始めたのは、彼の「内なる理想」である「偉大なロシア(帝政ロシア)」の復興を目指してのことだった、と述べました。極めて時代錯誤的な話ですが、彼は、そのような世界で生きていると考えられます。

 彼はとても「慎重」な性格でので、侵攻に踏み切るまでの三ヶ月間、欧米の出方を探り、「欧米の直接介入はない」と判断した時点で、侵攻を開始します。その間、ロシアの兵士たちは演習という名目で、劣悪な環境での待機を強いられることになり、それがキーウ侵攻の失敗の一因になったのですが‥‥。

 当初、プーチンは、ウクライナ政権の転覆と、それに代わる傀儡政権の樹立を企んでいて、キーウの占領を目論みます。でも、プーチンの計画は最善だったとしても、自軍とウクライナ軍の戦闘能力や戦意の「実態」を適切に評価していなかったようで、キーウ侵攻は失敗に終わります。ただ、彼は、自らを失敗のない完ぺきな指導者であると考えているので、敗北を受け容れられないプーチンは、それを作戦変更」という装いをまとわせ、ロシア国民には伝えます。

 とは言え、その敗北により、彼の「完全さ」が傷つけられた訳で、それを回復させるため、エネルギーや食糧を使った欧米への恫喝や、欧米以外の国を味方にするための外交など、精力的に活動をします。ただ、それは、彼の焦りによるものであり、「手あたり次第」という感は否めず、その結果は、あまり芳しいものではなかったと考えられます。

 その後、欧米による精密誘導兵器などの新たな武器供与が進み、それが効果をもたらすと、ウクライナの反転攻勢が始まりした。

 

2)プーチンの戦争を終結に導く「難しさ」

a.敗北を受け入れず、次々と策を打ってくる

 プーチンは、自らの肉体や精神、さらに、自らのまわりのものを思うようにコントロールしようとすることで、ひたすら、自らが完全無比な存在となることを目指してきた人だと考えます。それが達成される過程で、次第に、自分が完全な存在であるかのように感じるに至ったと考えられます。

 そんな彼は、外界を意のままに動かせるという、非現実的な考えをもち、さまざまな策略をもって、みずからの完全さを維持しようとするのではないでしょうか。彼にとって、自らの失敗や限界を認めることは、極端に言えば、自らが「無能」、「無力」であることを認めるに等しいことで、到底受け入れられることではないからです。

 だから、戦況が悪化し、彼が追い詰められられれば追い詰められるほど、彼の「威信」が傷つけば傷つくほど、プーチンは、さらなる「次の一手」を繰り出していくものと考えられます。ですので、戦争が終わりに向かうような動きは、なかなか見えてこないのではないか、と考えられます。


b.責任の転嫁

 彼が完全な存在であり続けるための、もう一つの策略は、自らの失敗・失策についての責任を他の人に「転嫁」することです。そうすることで、プーチンは、自らの過ちを「正当化」することができるのだ、と考えています。

 これまでも、作戦やその遂行上の失敗は、その指揮をとった軍人や諜報機関の幹部の無能のせいであるとして、その人たちを更迭したり、彼らに処罰を与えたりしています。


 国民に不人気となる可能性のあった、予備役の部分動員についても、あくまで、「ショイグ国防相の提案によるもの」と、その責任を彼に転嫁しています。

 また、ウクライナ侵略で生じた、エネルギーや食糧の世界的な危機についても、ウクライナを支援することで、戦争をいたずらに長引かせている欧米に責任がある、といった主張をしています。

 自らの責任を認めようとはしないので、それを追求することで、戦争を終結させようとする試みは、うまく進まないものと考えます。


c.説得や妥協を拒否する

 自らを完全だと考えるプーチンは、あたかも、自らが「全知全能」な存在になったかのような感覚に陥っていると考えています。自分だけがすべてを知り、ゆえに、正しい判断ができると考えている人なので、彼の考えに反する意見や説得はすべて、彼に対する「批判」や「挑戦」とみなされ、彼により却下されます。つまり、完ぺきな彼から見たら「凡庸」にしか見えない人たちの意見は、彼にとってまったく受け入れる余地のないものだとみなされるのではないでしょうか。

 インドのモディ首相との会談で、「戦争をしている場合ではない」と忠告をされていますが、プーチンはそれを無視したかのように、戦争継続の途を歩み続けています。

 また、「妥協」といった、相手の主張との中間点を受け入れるような行為は、彼にとって、すべて「弱さ」の表れと見なされます。彼は、「最善」でないと我慢ができないのです。そこから少しでも譲歩するようなことは、弱腰の何ものでもないと考えているのではないでしょうか。

 このことは、戦争終結に向けた、プーチンとの外交による交渉は、半ば不可能に近いことを意味すると考えられます。そもそも、外交交渉では、必ず相手側がいることなので、相手の意見を受け入れたり、妥協したりするといったことは、外交には不可欠の要素だからです。


d.言葉の魔術

 プーチンは、「言葉」というものを、人々に影響を及ぼし彼らをコントロールするための「道具」として、大いに利用をしている人だと考えています。巧みな弁舌、つまり、「雄弁」に語ることで、思うように人を動かしうると確信しているのではないでしょうか。長年にわたって、プーチンが作り上げてきた、” ことばを巧みに用いて効果的に表現する技術 ” 、つまり、「レトリック」の技術が人と対峙する時の主要な武器となっているのです。



 たとえば、自らの偉大さを示したい時には、「決然」とした言葉を選び、「断固」した態度で話すでしょう。自分にとって都合の悪い話題に対しては、たくみに主題を「あいまい」にしたり、話題の「すり替え」を行うでしょう。自らの責任を追及されるような場面では、他の人にそれを「転嫁」するでしょう。プーチンに対する挑戦的な意見に対しては、それを黙って受け入れることなく、威嚇したり、厳しく反論するでしょう。かりに自らの失敗を受け入れた時には、自分の非を受け入れられるほどに自分は「偉大」であり、「完全」であるという脈絡にすり替えるでしょう。そのように相手を威嚇したり、だましたりしているのにもかかわらず、自分は「徳」ある人間であるといった話にすり替えてしまうかもしれません。いずれにせよ、プーチンのレトリックは、自らの「完全さ」と「優越性」を守るために使われている策略の一つだと考えられます。

 このため、もっぱら、プーチンの言葉やプーチンから情報を情報源にしているようなロシア国民の多くが、彼の言葉から、偉大な指導者だと信じ込んでしまっていても不思議ではありません。そのことが、プーチンへの支持率が高止まりしている一因で、結果、ウクライナ侵攻への、国民の反対運動が盛り上がらないのではないでしょうか。

 最近、ロシア研究者などを集めた、プーチン主催の会議が開かれましたが、その際のプーチンの発言については、その内容よりも、彼がどのような「レトリック」を用いて話しているかに、注目をしてみてはいかがでしょうか。


e.自らの行為に自覚はない

 以上のことを、プーチンは「意図的」、「意識的」に行っているのではないと思います。なぜなら、そうすること、つまり、そのように考えたり、行動したりすることは、「彼の生き方そのもの」になっているからです。

 つまり、彼が息をしたり、歩いたりするのと同じように、自らの「完全さ」を維持するため、プーチンは、さまざまな策動や策略を行使していると考えられます。

 だから、そのことを指摘したとしても、間違いなく、プーチンの抵抗に会うでしょう。そして、否定やごまかしやすり替えなど、彼がこれまで行ってきた策略を駆使されるだけに終わるのではないでしょうか。

◇このシリーズの続きの記事は、性格」から見たプーチン(4)-戦争終結へのシナリオ-です。



【参考文献】

「強迫パーソナリティ」、L.サルズマン、1973.(邦訳:成田善弘、笠原嘉、みすず書房、1998.)

「性格と精神疾患」、志村宗生、金剛出版、2015.

 


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